イタリアでの離婚

裁判官イタリアの離婚が、日本のそれと大きく異るのは、日本であれば、お互いの合意のもと、離婚届を提出して、それが受理されれば、離婚が成立するものの、一方イタリアでは、お互いに離婚の意思があっても、まず法的な別居期間を経て、その後、離婚が成立するまでに、多くの場合、数年の時間を要する、という点です(後ほど新制度についても)。

イタリアで別居

婚姻関係にある当事者同士に離婚の意思があっても、離婚の前にまずは法的に別居(separazione legale)の手続きを取り、3年以上経過しても尚二人の関係が修復出来ない時にはじめて、離婚の手続きを取ることが出来ます。

別居には、協議別居(separazione consensuale)と調停別居(separazione giudiziale)があり、前者は当事者二人の間で別居やそれに関わる条件に合意し、更に裁判官の承認のもとの別居、後者は当事者のどちらか一人だけ、もしくは双方が別居を申し立て、別居やそれに関わる条件に合意できない場合、後に裁判官が承認した上での別居を指します。

裁判所を通さない、事実上の別居では、3年以上別居期間を経ても、それを理由に離婚を請求することは出来ません。

有責配偶者

調停別居の場合で、当事者のどちらか一方に、夫婦としての義務に著しく反する行為があり、それが同居(婚姻関係の継続)を続けることが難しい原因となっている場合は、原因側を有責配偶者(seprazione con addebito)として、裁判官を通し責任を問うことが出来ます(Art. 151 C.C)。

有責配偶者として問われる可能性がある例としては、婚姻外関係などがあります。

有責配偶者となった場合、生活維持費の請求が出来ません。

また法的別居期間中に配偶者が亡くなった場合も、有責配偶者の遺産相続の権利は限定されます(有責配偶者でない場合は、限定されず、法的別居前と変わらない権利を持つ)。

協議別居の手続き

双方が別居に同意している旨、協議別居請願書(domanda conguinta di separazione)を当事者双方、もしくは片方が住民票を置く地区の裁判所に提出します。

この時点では、必ずしも弁護士の同伴は求められません(但し公平性を期し、将来の為にも、弁護士を付けるのが望ましい)。

また2012年のデータでは、法的別居の約85%が、協議別居を選択している、とのこと。

提出書類

  • 結婚証明書(atto di matrimonio)
  • 住民票(certificato contestuale di residenza)
  • 戸籍謄本(stato di famiglia)
  1. 裁判所で公的な書類の準備が整った後、裁判長に拠って、口頭弁論会(udienza)の日時が設定されます。
  2. 口頭弁論会において、まずは二人の関係の修復(conciliazione)が試みられます。
    話しあううちに気持ちが変わって修復に合意する場合、裁判所で請願書を取り下げることが出来ます。
  3. 一方で口頭弁論会における修復が失敗に終わった場合、その瞬間から法的な別居期間が開始します。
  4. 裁判所は、市役所に別居の承認(omologa di separazione)を通知します。
  5. 市役所側で、協議別居中の旨、戸籍謄本に注釈が付けられます。

裁判所への書類提出から、別居期間の開始(裁判所の承認)までは、凡そ半年前後を要します。

調停別居の手続き

調停別居を希望する場合は、弁護士を付ける義務があります。

離婚請求(istanza di separazione)を当事者双方、もしくは片方が住民票を置く地区の裁判所に、弁護士が提出します。

提出書類は、協議別居の場合と同様です。

  1. 裁判長に拠って、口頭弁論会の日時が設定されます。
  2. 口頭弁論会において、まずは二人の関係の修復が試みられます。
    関係の修復が望めない場合、予審判事(giudice istruttore)のもと、別居訴訟が提訴され、民事訴訟中、双方はそれぞれの弁護士のサポートを受けます。
  3. 訴訟終了時に、別居判決が出ます。
  4. 裁判所は、市役所に別居判決を通知します。
  5. 市役所側で、調停別居中の旨、戸籍謄本に注釈が付けられます。

訴訟期間とは関係なく、当事者の子供(子供はどちらに委ねられるか、面会権)と住居(住居の割り当て)などに関し、緊急で一時的な措置が取られる場合もあります。

裁判所への書類提出から、別居判決までは、2-3年掛かるのが一般的です。

別居に掛かる費用

イタリアでは、弁護報酬は個々の弁護士がその基準を定める(Decreto Bersani (l. n. 248/06))ことになっているため、標準的な価格というものは存在しません。

が、凡そ、一般的には以下の費用がかかる場合が多いようです。

別居の際に掛かる費用としては、協議別居で1度の口頭弁論会のみの場合は、弁護報酬として1000-3500€程度。

調停別居の場合で、5度前後の口頭弁論会の場合は、弁護報酬として1200-10000€程度。

加えて有責配偶者としての責任を問う場合は、数年の時間が必要となることが多い為、更なる費用が必要です。

弁護報酬の他、書類作成料、収入印紙代などの実費など、弁護料の総額から凡そ十数%程度の費用も別途掛かると言われています。

一方、有責配偶者でない場合は、所謂日本の国選弁護制度のように、patrocinio a spese dello Statoを利用する権利も与えられます。

親権

日本では離婚の際、子供はどちらが引き取るのか?という問題はすなわち、親権の問題です。

一方イタリアでは、親の権利というよりも、法的な別居後も、子供は両方の親との関係を保つ権利があり、両方の親には親として平等の義務があること(Art. 155, 155 bis C.C)、又、2006年の法改正後は、子供が両方の親に委ねられる(affidamento condiviso dei figli)例も多くなっています。

が、時間的、生活面などでも、両方が全ての意味で完全に親としての義務を折半することは現実的ではない為、事実上は、どちらかの親に、子供が委ねられる(affidamento dei figli)ことが大半です。

裁判官は、何よりも子供の権利を最優先し、主に委ねる親を選択します。

それと同時に、両方の親が子供の成長・教育に関わることが出来るよう、子供と離れて暮らしている親との面会、養育費などについて、裁定します。

イタリアでは、特に子供が小さければ小さいほど、主に委ねられる親として母親が選ばれる場合が多いようです。

養育費

養育費(assegno di mantenimento figli(Art.155-quinties C.C))は、それぞれの子供が必要としているもの、両親各々の経済状況、子供がそれぞれの親と過ごす時間などに拠りますが、基本的には子供の権利、つまり両親が別居前の子供の生活スタイルを出来る限り維持することが最優先事項として、考慮されます。

養育費の計算は、両方の親の収入(不動産・投資など、就労収入以外も含む)、住居の割り当ての有無などにも拠りますが、2015年のデータでは、養育費として、子供が一人の場合は160-440€/月、二人以上の場合は210-600€/月というのが一般的です。

平均にすると、どうしても養育費が飛び抜けて多い(1000€/月を超える。全体の約15%)一部の富裕層が入るため、現実的なところでは、養育費は400€/月未満というのが、全体の約6割を占めます。

子供が成人(イタリアでは18歳)し、経済的に自立した時点で、養育費を支払う側の親は、養育費支払い終了を請求することが出来ます。

が、子供が成人している場合も、‘子供の意思とは関係なく’、経済的に自立していない場合は、成人した子供にも、養育費を請求する権利があります(Art.155-quinties C.C)。

成人した子供の養育費については、それぞれのケースを裁判長が判断するものであって、期間や額などが法律で定められているものではありません。

養育費の支払い義務と増減

養育費の支払いを怠った場合は、最大で1年の懲役(Art. 570 C.P)、もしくは最大1032€の罰金(Art. 151 C.C)が生じます。

支払いが義務付けられた側は、たとえ、失業したとしても、養育費の支払い義務が免除されるわけではありません。

但し支払い義務側の失業、病気、不動産収入の減少を理由に、養育費の減額を求める権利があります。

住居の割り当て

子供には、両親が別居前の生活スタイル(子供が成長した家)を出来るだけ維持する権利があることから、子供が主に委ねられる親側、もしくは、より経済的弱者側に、夫婦が同居していた住居に住む権利が与えらる(assegnazione casa coniugale)のが通常です。

割り当てられた住居の家賃とローン

ケース・バイ・ケースですが、概要としては、以下のとおりです。

住居所有者として、名義が双方、もしくは出て行く側にあったとしても、住居を割り当てられた側の親は一切の家賃支払の義務はありません。

一方、管理費や光熱費、アパートのリフォームなどの費用は、裁判で認められていない限りは、居住者側の支払いとなります。

一方で賃貸で住む家を割り当てられた場合、名義人が実際の居住者でない場合は、別居の判決とともに、名義変更を行います。

この場合は、実際に居住する側が家賃、その他の費用の支払いを行います。

割り当てられた家に住宅ローンが残っている場合、夫婦が別居したとしても、ローンの返済の義務を逃れるわけではありません。

出て行く側がローンの借入者となっている場合、引き続き、借入者がローンの返済を行う義務がありますが、この場合、養育費や生活維持費の支払いが減額されます。

共同名義でローンを組んだ場合、銀行側が返済者に十分な返済能力があると判断すれば、実際に居住する者を唯一の名義人として借り換えすることも可能です。

一方で名義人の変更が難しい場合は、住居を売却して、ローンの完済に充てる、などが考えられます。

生活維持費

子供の有無とは関係なく、経済的弱者側の配偶者に相応な収入がない場合、別居前に出来るだけ近い生活スタイルを維持する目的で、生活維持費(assegno di mantenimento coniuge)を請求する権利があります。

生活維持費を請求出来る条件として、

  • 経済的弱者側の請求があること
  • 請求側が、有責配偶者でないこと
  • 請求側に相応の収入がないこと
  • 請求された側に、支払い能力があること

です。

生活維持費は400€/月未満が、全体の約7割を占めます。

養育費・生活維持費が支払われる割合

子供に対する養育費のみの支払いが認められた例は全法的別居数の約47%(うち97%で、父親が母親側に支払う)、養育費と生活維持費が認められた例は全体数の約10%、生活維持費のみが認められた例は全体数の約8%となっています。

別居期間中、子供連れでの許可無き出国

法的別居期間中に、子供を委ねられた側の親が、もう一方の親の許可を得ずに外国に連れ出した場合、子供と住居に関する措置の変更を申し立てられる可能性があるだけでなく、刑事裁判に問われる場合があります。

但し裁判長の了承がある場合は、これに限りません。

イタリアでの離婚

法的別居期間3年を経てようやく、離婚を請求することが出来ます。

協議離婚

双方が離婚やその条件に同意している場合は、協議離婚請願書(domanda di divorzio giudiziale)を当事者双方、もしくは片方が住民票を置く、もしくは一番最近まで住民票があった地区の裁判所に提出します。

この時点では、必ずしも弁護士の同伴は求められません。

また2012年のデータに拠ると、離婚する夫婦の約7割強が、協議離婚を選択している、とのこと。

調停離婚

当事者間で離婚やその条件に同意出来ない場合は、弁護士を通して、調停離婚(divorzio giudiziale)を請求する権利があります。

協議・調停離婚、いずれの場合も、裁判長により口頭弁論会の日時が設定されます。

協議離婚の場合は、1度の口頭弁論会のみで、離婚判決が出ます。

調停離婚の場合は、裁判長が和解を試みますが、それが望めない場合、基本的には法的別居時に定められた条件(養育費、住居の割り当て、生活維持費、面会権など)をもとに(但し必ずしもその限りではない)、条件面での一時的な措置が取られます。

その後引き続き、双方の弁護士サポートのもと、必要回、口頭弁論回が開かれます。

離婚判決

協議離婚の場合は、最初で唯一の口頭弁論会に引き続いて、離婚判決が出ます。

一方で協議離婚の場合は、全ての口頭弁論回終了後に、離婚判決が出ます。

離婚判決では、

  • 離婚手当、もしくは・加えて、生活維持費、養育費
  • 住居の割り当てを含む、財産分与
  • 子供が委ねられる親と、そうでない親の面会権

についての裁定が出ます。

財産の分与

当事者間の財産の分与については、結婚時に、財産の共有(comunione dei beni)、ないし分割(separazione dei beni)を選択していたか、に拠ります。

財産の共有と分割については、イタリアでの結婚を参照して下さい。

離婚手当

しばしば法的別居時の生活維持費と混同されやすいものの、それとは性質が異なるものが、離婚手当(assegno divorzile)です。

離婚手当とは、離婚判決が出る際に、経済的弱者側に離婚手当が必要な場合、裁判長が、双方の経済状況、離婚理由、結婚継続期間などをもとに計算し、その権利が与えられるものです。

離婚の理由もその計算に入れられることから、日本で言うところの慰謝料に近い意味合いがある部分もあります。

但し離婚手当受け取りには、経済的弱者側に、それ相応の収入が無いだけではなく、具体的に相応の収入を得るのが難しい状況である(健康上の理由で働くことが出来ない、など)と判断される必要があります。

ですので、結婚時の生活スタイルを出来るだけ維持する目的で支払われる生活維持費とは異なる性質のもので、基本的には、経済的な弱者側にも新しい生活へと一歩を踏み出す(努力する)ことが求められます。

離婚に掛かる時間と費用

イタリアでの協議離婚に掛かる時間は、協議離婚請願書の提出から離婚判決まで平均250日程度、調停離婚の場合は、請求から離婚判決まで500日程度と言われていますが、特に調停離婚の場合、口頭弁論回が開かれる頻度などによっても、かなり変わります。

イタリアでの離婚に掛かる弁護報酬は、協議離婚の場合で2000弱-3500€、調停離婚で口頭弁論会が5回程度までの場合で10000€からというのが一般的と言われています。

この他に、文書作成費用、収入印紙代等が掛かります。

離婚後、子供をどこで育てるか

例えば日本人妻とイタリア人夫の離婚で、二人の間に子供がいる場合、特に離婚判決後、子供が母親に委ねられると、おそらく多くの日本人妻が家族の居る日本への帰国を希望するかもしれません。

それ自体は、裁判長の裁定により、不可能ではありません(地理的な距離は、双方の両親としての義務を果たすことにおいて、障害とはならない、との判決有り)。

但し子供を委ねられた側が、国外へ引っ越す場合、もう一方に養育費や離婚手当の支払い義務がある場合も、面会権が劇的に減少する可能性が高いことなどから、それらの支払い減額等が認められるのが通常です。

ですが、裁判長の許可無く子供を国外に連れ出した場合は、ハーグ条約国際的な子の奪取の民事面に関する条約により、子供をもとの国(居住所地)に返還される可能性があり、またイタリア国内では、刑事裁判に問われる可能性、またもう一方側より、条件(委ねる親、離婚手当など)の変更を訴えられる可能性があります。

イタリアでの離婚に関する新しい法律

これまで、協議離婚と調停離婚の2種類についてまとめましたが、現在(2015)、イタリアでの離婚に関する新しい法律の施行が待たれています。

これまで非常に長い時間が掛かっていたイタリアでの離婚が、新しい法律が施行されると、場合に拠っては随分と短い時間で行えるようになります。

イタリアでの新しい離婚のかたち

直接離婚
直接離婚(divorzio diretto)とは、つまり、法的別居を必要としない離婚です。
当事者間に未成年の子供、もしくはハンディキャップのある子供(未成年に限らない)、25歳未満の子供で経済的に自立していない子供、のいずれも居ない場合で、双方間で離婚やその条件に関して同意している場合、裁判長に、即時離婚を申し立てることが出来ます。
短期離婚
短期離婚(divorzio breve)とは、当事者間に未成年の子供、もしくはハンディキャップのある子供(未成年に限らない)、25歳未満の子供で経済的に自立していない子供、のいずれか以上が居る場合のうち、協議別居は最初の口頭弁論回から6ヶ月、調停別居は1年の期間を経て、短期離婚を申し立てることが出来ます。
市役所離婚
双方に子供が無く、一切の財産の移動が行われない場合、市役所にて離婚(divorzio in comune)の申し立てが出来ます。
この場合、弁護士は不要ですが、手続料としての収入印紙代が発生します。
弁護士のサポートのもと、直談判離婚
弁護士事務所で双方間の交渉が行われ(negoziazione assistita)、その結果を裁判所に報告する方式です。
裁判所を通さない分、時間の短縮が見込まれます。

この他に、これまでと同様、協議離婚と調停離婚というかたちが残ります。

手続き自体は変わるものの、養育費、住居の割り当てなど、具体的な内容はこれまでと変わりません。

ただ、将来的に離婚までの時間短縮が見込まれると言っても、基本的に当事者間だけの問題であり、尚且つ、離婚やその条件に合意出来る場合のみの話で、未成年の子供がいる場合や、離婚の条件に合意できない場合などは、今後も、それなりの時間と費用、そして何より忍耐が求められるのが、イタリアでの離婚です。

イタリアでの離婚まとめ

結婚の場合と違い、離婚の際には、それぞれを取り巻く環境に拠って通る道や、結果も異なります。

このページでは、イタリアでの離婚に関する概要をまとめましたが、実際には、当事者間で問題が解決出来る場合はそれが良いですが、そうでない場合は、個々のケースで裁判所が状況を判断した上、判決が出るのでそれに従う、というかたちになります。

つまりケース・バイ・ケース、だということです。

ですのでやはり、信頼のおける弁護士を見つける、というのが最良の手段になるでしょう。

スポンサーリンク

日本一時帰国中に医療費等カバーする保険、15日間~で見積もり

日本滞在、医療費カバー39€~

割引コード IMI15Aで10%OFF。


医療費+αの幅広い補償 43€~

限定コード PR1001 入力で10%OFF。


年間プラン 1回31日まで105€~

1年間に無制限回数旅行可。SEGUG35 で35%OFF


Allianzグループで安心

割引コード CARE102015 入力で、10%の値引き


15日間、医療費のみなら33€~

MAX10 入力で10%の割引適用。


年間プラン 1回45日まで189€~

年間無制限回数旅行可。CDESC4NMVC98-15 で10%割引


イタリアから日本への格安往復航空券500€~

スポンサーリンク