イタリアで結婚
国が違えば、手続きも色々と変わってくるもので、自身の経験も踏まえ、イタリアで結婚する場合の概要について、順を追って説明します。
婚姻要件具備証明書(Nulla Osta)の申請
イタリアで結婚する為には、最初に在イタリア日本国大使館(ローマ)もしくは日本国総領事館(ミラノ)で婚姻要件具備証明書(Nulla Osta)を取得する必要があります。
婚姻要件具備証明書(Nulla Osta)申請必要書類
- 申請者のパスポート
- 婚姻相手の国籍、氏名、生年月日が明記された公的機関発行の書類(パスポート、Carta d'Identitàなど、コピー可)
- 3ヶ月以内に発行された‘戸籍謄本’または‘全部事項証明及び改製原戸籍’
- 手数料10€50¢
‘戸籍謄本’または‘全部事項証明及び改製原戸籍’は、戸籍がある本籍地の区役所でのみ取得可能ですが、家族が窓口で代理人として取得することも可能です。
私自身は両親に代理取得を依頼し、その後、EMSにてイタリアの自宅に郵送を依頼しました。
Nulla Ostaの作成には通常1日を要しますが、遠方の方は、事前に大使館・領事館に電話で相談をすると、午前中に申請を行った場合、その日の午後までに発行出来るよう便宜を図って下さることがあります。
また取得した‘戸籍謄本’または‘全部事項証明及び改製原戸籍’で、Nulla Ostaの発行が出来るか、事前に確認することも可能です(電話:06-487991, FAX:06-42014998)。
私自身は大使館へ事前に問い合わせたところ、最初に取得した‘戸籍謄本’は、どうやら‘全部事項証明’となっていたようで、併せて改製原戸籍が必要である旨、説明を受けました。
事前確認を怠っていた場合、2度に渡ってローマの大使館に出向くことになっていたので、Nulla Osta申請前には1度、管轄に問い合わせることをおすすめします。
証明書の認証
大使館または総領事館で発行された証明書は、県庁(Prefettura)での認証(Legalizzazione)が必要です。
認証には手数料として、印紙代16€が掛かります。
市役所への書類提出
婚姻要件具備証明書を取得し、それを認証した後は、市役所(Comune)の戸籍課(Ufficio Anagrafe)に婚約者双方で出向き、以下の書類を提出、結婚式の日取りを決定します。
- 当事者双方の有効な身分証明書
- Nulla Osta
- 出生証明書(certificato di nascità)
出生証明書については、日本人の私は、Nulla Osta内に記載があった為、特に提出は求められませんでした。
一方、イタリア人のパートナーについては、出生証明書の提出が必要で、出生登録と住民登録中の市役所が異なったため、現住所の市役所より、出生証明書の取り寄せ手続きを行い、(2つの役所の地理的な距離は200キロ程ですが)1ヶ月の時間を要しました。
財産の共有と分割
市役所への書類提出と同時に、結婚後の財産を共有(comunione dei beni)、もしくは分割(separazione dei beni)するかを宣誓します。
なぜこれが必要かと言えば、結婚が上手くいけば再考する必要はないものの、イタリア国立統計研究所ISTATに拠ると、2010年のデータで、イタリアで執り行われる1000組の結婚のうち489組が失敗(別居ないし離婚)に終わるということ。
I tassi di separazione e di divorzio totale mostrano per entrambi i fenomeni una continua crescita: se nel 1995 per ogni 1.000 matrimoni erano 158 le separazioni e 80 i divorzi, nel 2010 si arriva a 307 separazioni e 182 divorzi.
ISTAT
万一の際に、その時の財産(の分割)をどのようにするか、事前に決めておく、という制度です。
財産の共有とは、結婚後に取得した財産(給与、家、車、ペットなども含む)は共有のものである、という考え方です。
例えば、夫が会社員、妻が専業主婦であって、全て夫の収入で車を購入したとしても、車は夫と妻の共有の財産ということになります。
一方で財産の分割とは、結婚後に取得した財産も、それぞれの財産取得の出処となった者に限定される、という考え方です。
例えば先ほどと同条件で、夫が会社員、妻が専業主婦で、全て夫の収入にて車を購入した場合、車は夫の財産(妻に権利はない)となります。
ちなみに同じISTATに拠ると、2012年のデータで、68.9%の夫婦が財産の分割を選んだそうで、それは増える傾向にあります。
要するに、離婚する際、財産について早く決着をつけるため、またそれぞれが取得した財産はそれぞれのものである、という考え方がより浸透しているためだと思われます。
財産の共有から除外されるもの
以下のものは、財産の共有を選択した場合も、共有から除外されます。
- 結婚以前の財産
- 結婚後に相続した財産(遺産相続など)
- 使用が個人に非常に限定されたもの(髭剃り、化粧品など)
- 職業上必要な設備・道具類
- 損害賠償で得た財産や、障害年金の類
- 取得時に共有財産ではないことが名言されていた財産
式場の予約
市役所での書類提出と同時に、民事婚(市役所で挙式を挙げる)の場合は、式場(となる部屋)を予約します。
通常、市役所内の幾つかの部屋から式場を選択して予約でき、広さや雰囲気、借りる曜日などに拠って式場代が変わりますが、百から数百ユーロ程度のお代が一般的です。
観光地など人気の高い市役所の、人気の式場は、式場代が1000€以上と高額であったり(居住民と非居住民で料金が異なる配慮がある場合も)、1年以上前もって予約しなければならない場合もあるようですが、一般的ではありません。
また市役所で挙式と言っても、イタリアの多くの市役所は、それなりに歴史がある建物も多く、雰囲気のある式になることも少なくありません。
例えば私達が挙式したアレッツオの市役所は、1300年に建てられたお城然とした建物でした。
結婚の公示
全ての書類が揃った時点で、結婚の公示(pubblicazione di matrimonio)が行われます。
結婚の公示は、所謂、重婚などの不法な結婚を防ぐ目的で、2回の日曜日を含む8日間の公示期間の間に、二人の結婚に異議があるものは申し出る、といったものです。
殆ど儀式的なもので、以前は市役所の掲示板に公示されていましたが、現在では市役所のサイト上に掲載されます。
また結婚の公示より180日以内に、挙式が執り行われる必要があります。
結婚の公示に関する必要書類
- 当事者双方の有効な身分証明書
- 収入印紙代€16(新郎新婦で住民登録中の市役所が異なる場合は2通分として収入印紙代€32)
教会での結婚式
また教会での結婚式など、宗教に基づいた式(宗教婚)を希望する場合、この時期に教区司祭へ、日取りなども含めて相談します。
式場代としては、寄付(offerta)、所謂、お布施のようなものですが、地域や教会に拠ってかなり相場が異なる為、お住まいの地区の教会式の相場については、経験者のお友達などに尋ねると良いでしょう。
教会で結婚式を挙げる場合、これは教区司祭の判断に拠るところが大きいですが、多くの場合、キリスト教の教えやキリスト教のもとにおける良い夫婦像について学ぶために、結婚準備コース(corso prematrimoniale)への参加が求められる場合があります。
曜日・回数などは勿論、相談の上、教区司祭の判断に拠りますが、週末に6~10回前後に分けて行われる場合が多いようです。
立会人
更に挙式当日には、新郎新婦に各1名以上の立会人が必要であることから、それぞれの親友に相談します。
結婚式の準備
日本とイタリアにおける結婚式の準備で圧倒的に異なるのは、日本ではホテルなどの式場で、挙式(衣装・メークアップなども含む)から披露宴(メニューやお花、テーブル・セッテイングなど)まで、パッケージ化されているのに比べ、通常、イタリアではこれらのことを1つずつ、当事者二人で決めなければならない、という点です。
最近ではイタリアでもウェディング・プランナーなる職業の方もいらっしゃいますが、未だ一般的ではありません。
つまり、挙式場(教会・役所など)を予約、新郎新婦の衣装は式服を扱う店を幾つか廻って探し、ブーケや披露宴会場のお花も複数の花屋さんと相談、披露宴会場も幾つかのレストランなどから下見して決定、写真も複数のスタジオから検討、当日のメークアップ、髪型、エステなども行きつけの美容院で云々・・・といった感じです。
日本では、余りこだわりが無ければ、それこそ式場で提案されたプランに申し込むだけで挙式から披露宴まで行うことが出来ますが、イタリアでは、自分たちで1つずつ決めていかなければならない為、やや大変ではありますが、準備段階についてもより記憶に残るものになるでしょうし、日本と違って式場の縛りがない分、費用の面でも、比較的節約できる場合が多いです(勿論、招待人数も含めて、どのような挙式を行うかに拠りますが)。
御祝儀に替わるもの
イタリアの結婚式において、御祝儀は一般的ではありません。
それに替わるものとして、新郎新婦は、(高級)食器店や(大型)電気店などで新生活に必要な品を、ある程度幅のある価格帯の中から選択し、結婚の贈り物一覧(lista di nozze)としてお店に登録します。
招待客は、通常、招待状に結婚の贈り物一覧が登録されているお店が記載されているため、そのお店に出向き、各自、新郎新婦との関係や予算に拠って(通常100€~)、贈り物とする品を選びます。
つまりどんな贈り物が届いたとしても、そもそも本人たちが選択したものなので、無駄が無いという、とても合理的なシステムだと思います。
また旅行代理店で、新婚旅行の代金を、招待客がそれぞれの予算で出し合う、というものも。
最近では、招待状に新郎新婦の銀行口座が記載されているもの、つまり招待客が御祝儀を振り込むかたちも、稀に行われるようです。
引き出物
イタリアの結婚式では、引き出物に替わるものとして、式の最後に新郎新婦からbomboniere(ボンボニエーレ)という記念品が贈られることが一般的です。
bomboniereとは、ガラスや銀細工の容器にリボンなどで装飾がされた飾り物で、二人の名前や挙式日などが細工されたものをよく見かけます。
bomboniere自体は必ずしも結婚式の記念品としてのみ贈られるものではなく、洗礼式や聖体拝礼式など、お祝い事の記念として配られるものです。
購入は、専門のお店や、最近ではネット販売などもあり、1つ数ユーロから、高級なものでは1つ数十ユーロ以上するものもあります。
日本への婚姻の届出
イタリア方式で婚姻が成立したら、日本への婚姻の届出が必要です。 婚姻の成立から3ヶ月以内に婚姻届を日本大使館、日本総領事館または日本の本籍地役場に届ける必要があります。
日本大使館、日本総領事館への婚姻の届出
日本人同士の婚姻の場合
- 婚姻届3通(イタリア大使館窓口に用紙があります)
- 夫と妻の戸籍謄本各2通(6ヶ月以内に発行されたもの)
- 婚姻証明書(Certificato di Matrimonio)3通(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 婚姻証明書の和訳文3通(イタリア大使館作成の雛形有)
配偶者の一方が外国人の場合
- 婚姻届2通(イタリア大使館窓口に用紙があります)
- 日本人配偶者の戸籍謄本2通(6ヶ月以内に発行されたもの)
- 婚姻証明書2通(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 婚姻証明書の和訳文(イタリア大使館作成の雛形有)
- 外国人配偶者の国籍証明書(3ヶ月以内に発行されたもの)
- 外国人配偶者の国籍証明書の和訳文(イタリア大使館作成の雛形有)
婚姻証明書、国籍証明書は、市役所(Comune)の戸籍課(Ufficio Anagrafe)で取得出来ます。
婚姻の届出は、遠隔地に住む場合、郵送も可能です。
2€10¢の切手を同封の上、大使館領事班宛に婚姻届の請求を行います。
氏の変更
氏(姓)の変更を行う場合は、イタリア方式での婚姻成立から6ヶ月以内に外国人との婚姻による氏の変更届を届出る必要があります。
パスポートは、以前ですと記載事項の訂正を行い、既存のパスポートを使用することが可能でしたが、旅券法の一部改正に伴い、記載事項の訂正制度が廃止され、平成26年3月20日からは、記載事項変更旅券という新たな方式のパスポートの発給が始まりました。
併せて、滞在許可証、Carta d'Identità、税務番号、運転免許証なども、記載事項変更の手続きをする必要があります。
記載事項変更旅券とは
記載事項変更申請時に既存のパスポートを返納し、その返納したパスポートと有効期間満了日が同一となるパスポートを新たに発行するもの。
イタリアでは夫婦別姓が一般的
イタリア内務省に拠ると、‘馬鹿げた名前、恥ずかしい名前、出生が分かる名前、もしくはその他の理由で姓、もしくは姓名変更が必要なイタリア人は、県庁に変更申請を届けることが出来る云々・・・’
Il cittadino italiano che abbia l'esigenza di cambiare il proprio cognome, oppure il nome o cognome perché ridicolo ovvero vergognoso o perché rivela l'origine naturale o per motivi diversi, può farne richiesta al prefetto della provincia di residenza o nel luogo nella cui circoscrizione è situato l'ufficio dello stato civile dove si trova registrato l'atto di nascita al quale la richiesta si riferisce.
Ministero dell'Interno
とあるように、イタリア人同士の結婚の場合に、それを理由として、姓を変えることは一般的ではありません。
私自身も、たとえ日本で日本人と結婚していたとしても夫婦別姓を望んでいましたので、夫婦別姓を選択しました。
その結果、パスポートについて、念のため、在イタリア日本大使館に何らかの変更手続き申請が必要かどうか確認したところ、姓の変更がない場合は、特に手続きの必要はないとのことでした。
但し滞在許可証は、私の場合、就労用滞在許可証から家族用滞在許可証へ変更を行ったため、こちらは別途手続きを行いました。
所轄への確認
以上、私自身の経験も含めて、イタリアで結婚する場合の概要をお話しましたが、特に市役所での提出書類などは、各地で微妙に異なる場合があるため、各自、管轄へ必ずご確認下さい。